NEWDAYSSchroeder-Headz

 

高校2年の夏、名古屋市内はうだる様な暑さだった。初めての彼氏と、特に行きたくもない大学のオープンキャンパスに行った。

住宅街の中に立っている大学の校舎はどこか当時通っていた高校を思わせるような古臭さがあって、門前に立っただけで既に私たちは興味を失っていた、と思う。蝉の鳴き声が異様にうるさくて、汗と一緒に意欲が失われていった。

 

「暑いし煩いし、やめよう」と言い出したのはどちらからだったか。思っていたことは同じだったので、あっさりと私たちはオープンキャンパスをやめ、名古屋市内を散策することにした。どこに行ったかはあまり覚えていない。たったひとつだけ覚えているのは、ヴィレッジヴァンガードのゴミゴミした店内で聴いたSchroeder-Headzに心を奪われたこと。

 

その年の夏、一緒に花火大会に行く約束をした日に、携帯にSchroeder-Headzの曲を入れておいた。あの時よかったって言ってた曲、せっかくだから聞こうよ、と言った。彼の甚平姿や、花火や、そこで口にした出店のなんとも言えない食べ物よりもずっと、あの時聴いた曲の方が記憶に残っている。

 

結局彼とはあっという間に疎遠になって、高校を卒業する頃には連絡すら取らなくなった。すれ違っていった理由のひとつが成績の差だったことはつい最近知った。勉強が出来ることは当時の私の数少ない自慢だったし、部活動にどれだけ時間を取られても好成績を残そうと必死だった。努力を重ねていい大学に行った兄と比べられることへの反抗心もあったと思う。

 

関東の大学に編入するというので、久々に彼に会った。五年ぶりに会った彼は記憶にあるよりずっと太っていたし、もう演劇はやめたと語った。高校の頃は部活ばかりで成績のことなど気にもしていなかった彼が、難関と言われる大学に編入する為に払った努力がどれほどのものか、想像もできなかった。

 

「演劇を辞めてなくてよかった」と言われた時、「どうして辞めてしまったの」と言いそうになる気持ちを必死に抑えた。私は心のどこかで演劇を通して復讐するような気持ちでいたのだと、初めて気付いた。彼と打ち解けるきっかけでもあり、決別するきっかけでもあった演劇で評価されたら見返せるような気がしていたけれど、私たちの間に流れた五年の月日は思った以上に長くて、とうにそんなちっぽけな確執はなくなっていた。

 

付き合っていた頃に食べていたマクドナルドのフライドポテトよりもずっと美味しい料理を前に、私たちはいろんな話をした。あの頃仲が良かったひとたちのこと、この五年間の自分のこと、過去のこと。想像以上にいろんなものが変わっているのだと知った。

 

まだまだ話し足りないとそのまま向かったカラオケで彼が歌ったのは、私がずっと好きなバンドの曲だった。価値観も、選ぶ道も、趣味も変わっていく中で、音楽が確かに私たちを繋いでいるのだということが、わけもなく嬉しかった。朝まで歌い尽くして、高校生の頃のように、またねと別れを告げた。

 

あれから一年、結局彼とは一度も会ってはいないけれど、Schroeder-Headzを聴く回数だけは増えた。